部下の眼を意識しよう
本田宗一郎氏が、まだ浜松で細々と二輪車をつくっていた頃、初めて外国のバイヤーから引き合いがあり、一夜、料亭に招いた時のことです。
そのバイヤーがあろうことか、入歯をトイレの中に落としてしまいました。
当時のこととて料亭のトイレも汲み取り式ですから、さあ大変です。
それを知った本田さんは、すぐさまパンツ一つになって便槽に身を沈め入歯を探し始めたのです。
その時周囲には、後に副社長となり本田さんとの名コンビぶりを謳われた藤沢武夫氏をはじめ何人かの幹部社員がいたのですが、社長のその姿を見た藤沢さんは、全身が震えるような感動を覚え、どんなことがあっても一生涯この人の為に身を捧げようと決心したと述懐しておられます。
本田さんが全く誠意だけでその挙に出られたのか、あるいはこの時こそお客さまに対してあるべき姿を部下に示そうとしたのかは知る由もありませんが、おそらく真実は五分五分のところにあったのではないでしょうか。
ともかく、藤沢さんをはじめとする部下に与えた感動の大きさから考えて、田舎の町工場を世界のホンダにまで昇華させた原動力の一つに、この時の本田さんの勇気ある「自範行為」を挙げることが出来るように思えてなりません。
ロヂャースの太田社長にせよ、本田さんにせよ、共通するところは、部下の眼を非常に厳しく意識し、多大の自己犠牲を払いながらも、敢然として自分が部下に望むところを”してみせて”います。
あたかも観客に凝視されている名優のように、ものの見事に演じきっておられるのです。
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