2014年5月8日木曜日

「グーグルグラス」もう古い、時代はウェアラブルの次「体内埋め込み端末」に

米グーグルが4月15日、現実世界とインターネットの世界をリアルに融合する革命的な眼鏡型端末「グーグルグラス」を遂に一般発売しました。

 昨年5月、アプリ開発者向けに先行発売されましたが、今回は一般消費者向けに1日限定で発売されたのです。ちなみにお値段はひとつ1500ドル(約15 万円)也。けっこう高額ですが、16日付米ABCテレビ(電子版)によると、米東部時間午前9時から発売がスタートしましたが、午後3時半にはフレームが 白色のモデルが早々と売り切れるなど、かなりの売れ行きだったといいます(グーグル側は総販売個数は隠しています)。

 グーグルグラスのように体に装着して使う「ウエアラブル端末」は、既にソニーや韓国のサムスン電子が腕時計型の「スマートウォッチ」を発売しているほ か、グーグル傘下の米モトローラ・モビリティと、グーグルと関係の深い韓国のLG電子も、グーグルの基本ソフト(OS)を搭載したスマートウォッチを春か ら夏にかけて発売する予定です。また米アップルも今年2月、スマートウォッチの開発を示唆しました。

 いよいよ時代はウエアラブル。スマホやタブレット端末を持ち歩くのも時代遅れになりそうな勢いです。

 だがしかし。時代はわれわれの予想を遥かに上回る速度で進んでいました。何とウエアラブルでさえ既に最先端ではなくなっていたのです。では何が最先端なのか?。「お前は頭おかしいんか」と笑われそうですが、それは人間の体に埋め込む機器だったのです…。

 4月9日付米CNNテレビ(電子版)が報じていますが、米ミネソタ州在住の電子エンジニア兼バイオハッカー、ブライアン・マクイーボイ氏が、人間の皮膚の下に埋め込む羅針盤を開発。自らが“実験台”となってこの製品の機能を試すというのです。

 この羅針盤、名前は「サウスポー」といいます。人類に永遠の命を与えるといったユニークな研究を続ける世界的な共同プロジェクト 「Biohack.me(バイオハック・ミー)」を通じて開発されました。もともと山登りやピクニック、マウンテンバイクといったアウトドアスポーツを楽 しむ人々向けに作られた足首に装着して使うウエアラブル型羅針盤「ノースポー」(ひとつ159・99ドル=1万6000円)から着想を得て作ったといいま す。

 米の25セント硬貨の直径よりさらに小さい円柱形で、小型の羅針盤をシリコンでコーティングし、丸みを帯びたチタン製のカプセルで密封してあります。こ れを人間の皮膚の下に埋め込むのですが、利用者が北を向くと羅針盤の超極細のアンテナが反応。皮膚の下でかすかに振動し「そっちが北ですよ」と知らせてく れるのです。

 サウスポーについてマクイーボ氏はCNNに、人体に埋め込んでも耐えられる素材や形状を選んでいるため「安全上の問題はクリアしている」と説明。人体へ のリスクを最小限に抑えるため、専門家と相談を続けていると前置きしつつ「(将来)円盤状になるなら、肩の近くに埋め込むのが一番いいだろう」と話してい ます。

 いやはや恐るべし…。しかし「バイオハック・ミー」プロジェクトでは、他にもこうした人体に埋め込む機器が多く登場しているのです。

 このプロジェクトから派生した米グラインドハウス・ウェットウェア社では、埋め込んだ人間の体温のデータをブルートゥース(デジタル機器用の近距離無線 通信規格)を使って転送するというマイクロコンピューター「サーケーディア」を昨年開発。同社のティム・キャノン最高経営責任者(CEO)自らがこれを自 分の腕に埋め込み、体温データの転送を成功させました。

 また、このプロジェクトのフォーラムに参加するリック・リー氏(34)は何と昨年6月、「体内ヘッドホン」の作成に成功しました。昨年7月4日付英紙 ガーディアンなども報じていますが、両耳に特殊な小機器を1個ずつ埋め込み、首にネックレスのように巻き付けたコイル線が音を電磁波に変換することで音楽 が聴けたというのです。

 「自己の(身体機能の)増強や強化」が目的と語るリー氏は、この実験の結果「遠くの熱を“聴く”ことができるようになったほか、磁場や無線LAN信号も 感知できるようになった。これらは私がこれまで意識していなかった世界。まさにシックス・センス(第六感)ですよ」とCNNに説明しています。

 リー氏が「自己の(身体機能の)増強や強化」に力を入れるのは、自身の視力が悪化しつつあることも大きな理由のひとつです。この機器を用いて知覚認識を高め、方向感覚を向上させ、音を頼りに周囲の状況を認識するエコーロケーションの能力を高めたいと考えています。

 リーさんの試みはけっこう特殊と言えそうですが、逆に、既に製品化が具体化しそうな機器もあります。聴覚障害がある作家兼バイオハッカーのフランク・ス ウェイン氏は、無線LAN信号といったデータを音声に変換し、聴覚障害者を助ける人体埋め込みタイプの新型機器の商業化を支援しており、今秋にも試作品を 披露する予定です。

 また、さらに大規模ものとして、不特定多数がネット経由で資金を提供する「クラウドファンディング」で生まれた新興企業、米デンジャラス・シングズ社 が、記憶力の向上を助けるという人体埋め込み型のRFID(微小な無線チップにより人やモノを識別・管理する仕組み)のICチップを開発。既に各国の支援 者に計数百個のチップを送付しました。

 2005年に自らこのICチップを体に埋め込んだ同社の創業者兼CEO、アマル・グラーフストラ氏はCNNに「最近ではチップの記憶容量も97バイトから880バイトにまで増えるなど、性能もアップしている」と強調。

 これまでは氏名や電話番号などの記憶に留まっていたが、今の製品はもっと多くのデータを記憶させられると訴え、自身も物理的、電子的な鍵を開けるためのパスワードとして使っていると説明しました。

 どうですか?。時代はここまで進んでいるわけですが、一方でこうした技術が一気に普及するかどうかには疑問の声も少なくありません。

 同じCNN(電子版)が4月17日に伝えていますが、米独立系世論調査機関ピュー・リサーチ・センターがこの日、公表した米国人の科学技術観に関する調 査報告書によると「ウエアラブルや体内埋め込み型の端末によって常時接続できるようになるのは良いことだ」と答えた人は37%にとどまりました。

 さらに回答者の約3人に2人は、米アマゾンや米グーグルなどが計画している「米国の上空で私物や商用の無人機の飛行を認めれば、事態は悪化する」と回答し、ロボットに病人や高齢者の介護や看護を任せたり、出生前の子どものDNAを親が操作することにも否定的でした。

 調査は2月13~18日、全米50州とコロンビア特別区の成人1001人に電話で実施。全体の59%が「科学技術の進歩でこれからの半世紀は日常生活が 向上する」と予想。「悪くなる」は30%にとどまり、報告書も「来るべき半世紀後の世界について、米国民はSFの領域に限定されていた発明の数々が一般化 するという深遠なる科学技術の変革期になると予想している」と結論付けましたが、ウエアラブル端末や体内埋め込み型機器に関してはまだ拒否反応が強いよう です。

 また、人体埋め込み型の機器に関しては医学界でも意見が分かれています。実際、欧米ではでは医師によるこうした機器の埋め込みを法律などで認めない場合が多いうえ、バイオハッカーに対する不信感も根強いといいます。

 米サウスカロライナ大学で生物工学を教えるアンソニー・ジュゼッペ=エリー教授はCNNに「希望する人が自分自身の体に埋め込むだけにすべきだ。健康な人の身体機能を増強するのではなく、(健康上の)問題を解決することが医学の原則である」と訴えました。

 しかしその一方、ジュゼッペ=エリー教授は、劇的な成功を収めた人工網膜の埋め込みや、視覚・聴覚障害者の日常生活を向上させるという利点は認め「一般大衆の認識が(普及の)大きな障害になっているが、大きなインパクトを与えてきたことも知っている」と話しました。

 実際、英ではアルツハイマー病の患者の脳にシリコン製のチップを埋め込む臨床実験を行ったところ、弱っていた患者の脳神経細胞を刺激することに成功。ま た米国防高等研究計画局(DARPA)では、兵士たちのメンタル面でのトラウマ(心的外傷)をコントロールするため、脳へのチップの埋め込みを検討してい るといいます。

 果たして、科学技術の進歩は、われわれに明るい未来を提供してくれるのでしょうか…。

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