国内キャリアで初めて「VoLTE」による通話サービスをスタートし、さらに下り最大225Mbpsの「LTE-Advanced」を2014年度中に開
始すると発表したNTTドコモ。同社の常務執行役員でネットワーク担当
ネットワーク部長である徳広清志氏が、ワイヤレスジャパン2014の基調講演でドコモのネットワーク戦略と移動通信技術の将来像について語った。
「2014年は、1979年12月に日本で自動車電話サービスが始まって35年目。この間、第1世代から第3世代まで、携帯電話のシステムは3代に渡って
入れ替わってきた。そしていよいよ、年度末(2015年)には第4世代の周波数が割り当てられる。まさに今年は記念の年といえるだろう」と切り出した徳広
氏は、「この業界は技術革新が激しい業界。それは増大を続けるトラフィックに対し、常に新しい規格を使って対応してきたからだ」と述べ、第4世代、つまり
LTE-Advancedへの期待を示した。
●急増するトラフィックにどう対処するのか ドコモの悲しい過去から学ぶ
徳広氏は現状の業界トレンドについて、「業界全体でスマホ普及率は50%。デバイスがフィーチャーフォンからスマートフォンに移行することで、トラ
フィックは10倍から20倍になると予測されており、現実に従来から桁違いで増えてきている」と分析。そして、「トラフィックが急増したことで、我々の
ネットワークがパンクするという悲しい過去もあった」と、2011年から2012年にかけて立て続けに起こった通信障害を振り返った。
「パンクした理由は、データのトラフィック、制御信号、同時接続数の3つが増えたこと。トラフィックの増加は予測していたが、急所は制御信号だった。当
時のアプリは画面の切り替えなどで発呼信号や着呼信号などの制御信号を使う仕様だったため、それを賄い切れずに(障害発生の)引き金になってしまった」
(徳広氏)
その後ドコモは、通信障害の原因となったトラフィック/制御信号/同時接続の増加に対応するため、設備を増強して能力を拡大。地道な努力を重ねることで
「人為故障によるネットワークダウン・ゼロを、560日以上連続で継続している」(徳広氏)とその成果を強調した。しかし油断はできない。「スマホの普及
によりこの5年でトラフィックは10倍になった。今後5年でさらに10倍、つまり10年で100倍へとうなぎ上りで増えていく。キャリアにとってネット
ワークのパンクは1番のホラーストーリー。それをさせないよう(ネットワークを)設計するのが重要」と説明した。
ドコモは現在、800MHz帯/1.5GHz帯/1.7GHz帯/2GHz帯と4種類の周波数を使ってサービスを提供している。徳広氏は「このうち
800MHz帯と2GHz帯で広さをカバー、1.5GHz帯と1.7GHz帯で下り最大150Mbpsの速さを追求するという、“ハイブリッド”な使い方
をしている」と解説。端末側の対応については、「2013年9月から取り扱っているiPhone
5s/5cは、800MHz帯と2GHz帯、そして1.7GHz帯に対応。またドコモブランド(Android)のスマホの多くは4つすべての周波数に対
応しており、新しいモデルであればあるほど対応する周波数が多く、スピードが出やすいためによりサクサクと利用できる」とアピールした。
●2014年度にほぼ完成するドコモのLTEネットワーク
徳広氏は同社加藤社長がよく口にする「ネットワークは生き物」というキャッチフレーズを引き合いに、「ネットワークは道路の車線に例えられるが、道路が
どれくらい混み合うのかを予測しながら、車線の数を増やすなど、常に手を入れていく必要がある」と話す。予算面でもLTE向けに2013年度は3878億
円を投資したが、今年度(2014年度)はこれを4650億円へと増やした。LTE対応基地局も5万5300局から9万5300局へと増強し、中でも下り
最大100Mbps以上のサービスを提供できる基地局を2013年度末の3500局から4万局へと10倍にする計画だ。ドコモ全体の設備投資額が7031
億円から6900億円に減っているが、無線アクセス部の強化には今後も力を入れていく方針だ。
人口カバー率100%を達成している3GサービスのFOMAは、全国の基地局数が約10万局。徳広氏は2015年度にもLTE対応基地局が10万局近く
になるため、「今年でネットワークが(3GからLTEに)入れ替わるかな、と。年度末には人口カバー率が99%になる見込みで、LTEネットワークがほぼ
完成する」と予測した。
先述のようにドコモは4つの周波数を使い分けており、人口が密集してエリアと速度、キャパシティのすべてが求められる都市部では、1局で複数の周波数を
使い小さなセル(基地局がカバーするエリア)を6つ構築する6セクタ型基地局を採用。郊外など中間部は2セクタ型、山間部など人口が少ない場所では1局で
広いエリアをカバーするオムニ型と、使い分けている。
ただ設備を強化するだけではなく、運用面も重要だ。特に東京は「世界でもめずらしく鉄道網で支えられた都市。電車の乗客によるトラフィックは密度が通常
よりもはるかに濃く、世界最高レベル。これをいかにさばくかが重要」(徳広氏)だという。特に混み合うのが品川駅周辺で、「新幹線、京浜急行、山手線が同
時に入ってくると、1両目から信号が次々と飛んでくる。エラーが少なくなるよう、30年間のノウハウを使って地道にパラメータをひたすらチューニングして
対応している」と、経験がものをいう一面ものぞかせた。
LTEエリアが充実することで、高速通信が可能なロケーションが増えるだけでなく、新しい音声通話規格の「VoLTE」を使った高音質な通話も可能とな
る。VoLTEは音声品質が良くなるだけでなく、発着信の動作が速い、通話をしながら高速なパケット通信が可能なマルチアクセスができる、そしてビデオ通
話ができるなどの特徴を持つ。
●LTE/LTE-Advancedの先にある第5世代の通信規格とは
LTEネットワークを完成させつつあるドコモは、すでに次世代規格への取り組みも進めている。徳広氏は「2020年のトラフィックは2010年の
1000倍になると予測されている。ネットワークのキャパシティを上げるには、通信方式を入れ替えなければならない。そのために第4世代であるLTE-
Advancedを準備しており、第5世代(5G)の議論も進んでいる」とその必要性を説いた。
LTE-Advancedでもっとも特徴的な技術が、キャリアアグリゲーション(CareerAggregation:CA)だ。これは離れた周波数を
同時に使って高速化するもので、徳広氏は「離れた2車線を4車線に見たてて使うようなもの」と説明する。ドコモは今年度中に、800MHz帯と2GHz
帯、1.5GHz帯と2GHz帯の2つを組み合わせたCAを提供する計画で、通信速度は下り最大225Mbpsにアップする。
※初出時、キャリアアグリゲーションで用いる周波数帯域の組み合わせに誤りがありました。訂正しておわびいたします
また広いエリアをカバーするマクロセルの上に高速通信を受け持つマイクロセルを追加するヘテロジニアスネットワーク、複数のアンテナを同時に使って通信
を高速化するMIMOの拡張、基地局が連携することで高速通信を継続するセル間協調伝送技術なども使われる。徳広氏は「第4世代(LTE-
Advanced)は技術的なめどが付いており、オンゴーイング(現在進行形)だ」と述べ、間もなくスタートできることを改めて強調した。
LTE-Advancedの後に控えるのが第5世代で、より高速な通信を実現するために高い周波数を使うのが特徴だ。「電波の周波数が高くなると高ス
ループットで高速通信ができるが、遠くに飛びにくくなる。そこで従来の周波数と重ねることでエリアを構築する。そのために基地局はどんどん小さくなる」
(徳広氏)という。
第5世代は、LTEやLTE-Advanced(いずれもOFDMAと呼ばれる技術が使われている)を拡張するか、まったく新しい通信技術(New
Radio Access Technology:New
RAT)を採用することで、通信速度を飛躍的にアップさせる方針だ。「(第5世代なら)モバイル通信でも4K映像のストリーミングが可能になる」(徳広
氏)というように、よりリッチなサービスを提供できると期待されている。
その一方で、これから爆発的な普及が見込まれているM2MやIoT(モノのインターネット)を支えるために、低消費電力化や低コスト化、高信頼性も求め
られている。相反するような要求をクリアするためにドコモでは、世界の主要ベンダーと第5世代に関する実験で協力することを合意。2014年中に神奈川県
横須賀市のドコモR&Dセンターなどで屋内実験を開始し、2015年以降に屋外実験を開始する予定だ。
そして効率的で信頼性が高いインフラ作りに欠かせない仮想化されたコアネットワーク(Software-Defined
Network:SDN)についても、主要なベンダー3社との実証実験に成功している。徳広氏は、「従来(のコアネットワーク)は専用ハードウェアに専用
のソフトを搭載して提供していた。仮想化では汎用ハードに仮想化レイヤーを通じてソフトを載せ、いわば上半身と下半身を分離する。ハードになにか障害が起
きても、その上位レイヤーでサービスを提供できる」と説明した。
現在の約1000倍というトラフィックに対応するための第5世代通信規格。徳広氏は「シミュレーター上では500Mbpsから1Gbpsのスループット
が出ており、2020年に現在の1000倍になるトラフィックを賄うためのめどは付いている」と話し、「2020年の東京オリンピックに合わせて、世界最
高水準のサービスを提供したい」と講演を締めくくった。
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