表参道についにアップルストアがオープンする。ファッションやデザイン関係の仕事に携わる人が多いこのエリアでは、元々、駅のプラットフォームや構内を見渡してもiPhone利用者の比率が特に高く、昔からアップル直営店を望む人が多かった。
日本では、2003年11月に米国外初のアップルストアが銀座にできたのを皮切りに、2006年6月のアップルストア札幌まで7つの店舗がオープンしてい
る。しかしその後はかたくなに、(グローバル戦略を貫くアップルにしては珍しい)日本特有の販売形態である、量販店内に開設するApple
Shopの整備と全国展開に注力してきた。
当時、米国外でアップルストアがあるのは日本とイギリスくらいで、総店舗数は151店舗ほどしかなかったが、この8年のあいだに、米国のアップルストア
は50の州に対して254店舗に、英国の店舗は37店舗、カナダに29店舗、オーストラリアに21店舗、フランス16店舗、イタリア14店舗、ドイツ13
店舗、中国に10店舗、スペインにも10店舗、スイス3店舗、香港3店舗、スウェーデン3店舗、オランダ2店舗、ブラジル1店舗、トルコ1店舗と、世界
425店舗にまで拡大。しかも、2012年時点までの統計では、床面積辺りの売上高でファッションやブランドなどあらゆる形態の小売り店の中でもトップク
ラスの売上高を記録する、最も成功している小売りビジネスとして注目されている。
そんなアップルストアの人気の秘密は、ただ商品を売るという機能面だけでなく、まずは商店建築として一流であるということ、さらに商品を売った後にも丁
寧なアフターケアがあることの魅力がある。また、最近の傾向では、それぞれの店の個性に合わせた「その店でしか買えない」限定商品も用意されている。
6月13日午前10時、Tod’s Omotesandoの斜向い、伊藤病院の向かいにオープンするアップルストア表参道(Apple Store Omotesando)の魅力を、「建築」「アフターケア」「限定グッズ」の3つの視点で紹介していこう。
●表参道を彩る新しい商店建築
いまさら言うまでもないが、表参道は都道413号線が青山通りと交差する表参道交差点から、原宿駅前、明治神宮付近の神宮橋交差点までの全長約1.1キロメートルの区間。ここは日本でも屈指の有名建築が並ぶ通りだ。
アップルストア表参道の店内からもよく見える「Tod’s Omotesando」はプリツカー賞受賞の伊東豊雄氏の建築として有名だし、その隣に中層階がくぼんだトーチのような形をした「表参道けやきビル」も團紀彦氏の有名建築。
ほかにも、少し原宿寄りには歴史ある同潤会アパートを一部リノベーションし統合、店舗が並ぶエリアは表参道と同じ傾斜の坂道を配した安藤忠雄の「表参道ヒルズ」がある。
原宿に向かってさらに進むと、妹島和世+西沢立衛/SANAAによる「Dior表参道」が、そしてその隣には表参道を心地よく見下ろせるバーやレストラ
ンがあるMVRDV+竹中工務店の「GYRE」があり、明治神宮を超えた向こう側には丹下健三の「国立代々木競技場」が鎮座している。
一方、アップルストア表参道から近い青山通りを原宿と反対方向、西麻布方面に渡った向こう側にも関西空港などの建築で有名なヘルツォーク&ド・ムーロン
のあまりにも有名な「プラダ ブティック青山店」から、片山正通が内装を手掛けた「INTERSECT by LEXUS」、ISSEI
MIYAKEの「REALITY LAB.」、「Miele Center
Omotesando」、そして「根津美術館」など、感度が高い人たちが集まるスポットが密集している。
アップルストア表参道の内覧会で店舗の紹介をしたシニア・マーケットディレクターのDenny Tuza氏も、同店は表参道に立ち並ぶ優美な建築物から大きなインスピレーションを受けた、と語っている。
そんなアップルストア表参道の最大の特徴は、並木の向こうに青空が楽しめる、9.5メートルの高い天井まで伸びた長いガラス板(実際にはアクリル合わせ
パネル)を連ねるファサードだ。使われているガラスの総面積は500平方メートル――これは日本のアップルストアの中では最大の規模を誇る。
この開放的なガラスのファサードは、同店を優美なガラス建築として外から楽しむ喜びを与えているだけでなく、店舗内にいても表参道の美しい街並や建築、そして並木通りの息吹を感じられるしかけにもなっている。
また、美しい並木道に溶け込むようにガラスファサードに映るケヤキの樹を楽しませるだけでなく、ストアの側面にはハナミズキを植え、裏側の壁面はツタで
覆っている。高い天井の中央には遠くからでもハッキリとわかる白く光るアップルのロゴマークが配されており、その下には優美な曲線を描くらせん階段が用意
されている。
●時間の変化を楽しめる石の壁と優美ならせん階段
アップルストア表参道は、地上階と地下階の2フロア構成(実際には、地下2階に倉庫などに使うフロアもあるようだ)で、地上階にはらせん階段の左右それ
ぞれに4列×2脚のオーク(ナラ)材のテーブルが合計16台設置され、その上にMacやiPhone、iPadなどの主力製品が並べられて自由に使えるよ
うになっている。
これまでの国内のアップルストアのテーブルはメープル(カエデ)材のテーブルとイタリアから輸送されてくるピエトラ・セレーナ(「晴れやかな石」の意味)という石が使われていた(ルネサンス期にフィレンツェの公共建築物などで好んで使われた石だ)。
これに対して最近のアップルストアでは、バルセロナの店舗など一部では石を特徴にしているものもあるが、Terazzo(人造大理石)が使われることが増えている(一節にはピエトラ・セレーナの供給が不足してきたとも言われている)。
だが、アップルストアから石の要素が消え去ったわけではない。
アップルストア表参道では、地上階、入り口と反対側側面の上方に向かってピエトラ・セレーナとはまた別の種類の砂岩が使われている(現時点で種類は確認
できず)。この砂岩は時間の経過とともに色の変化が楽しめるようになっているということで、今はまだできたてでピカピカのアップルストアが、ゆっくりと時
間をかけてこのけやき並木に一体化していく変化を楽しめるだろう。
ストアの中央には、同店のもう1つの特徴であるガラスのらせん階段がある。ガラスのらせん階段といえば、日本ではアップルストア心斎橋の特徴にもなって
いる。2000年代のアップルストアは強度、ガラス破砕後の保持力などの高さから金属サポートを最小化できるデュポンのセントリグラスを使い、できるだけ
ガラスだけで階段を作ろうという努力が行なわれていた。その最たる例がアップルストア名古屋栄の階段で、ここはらせん階段ではないが、世界でも初めて階段
のステップ1段1段が金属サポートなしのガラス板となっている、ただしその代償として、階段の下がまるまるデッドスペースになってしまう、という問題も
あった。
これに対して、Mac OS
Xのユーザーインタフェースがメタル調になったのと前後して始まった最近のアップルストアのトレンドは、ガラスとの一体感が高い金属サポートを用意するこ
とで、iPhone本体にも相通じる“ガラスとメタルの一体感”が生み出す美しさを楽しめるようになっている。
アップルストア表参道は、そうしたガラスとメタルの階段の中でも新世代の工法を用いたもので、これまで以上に優美な曲線の中、ところどころにキリリとエッジを立たせているのが特徴のようだ。この工法を用いたのは世界中のアップルストアの中でも同店が初ということだ。
地下階に移ろう。地下階は原宿駅側に他社製のヘッドフォンやスピーカーなど、アクセサリー商品が並べられたテーブルが6脚、反対側にMacなどが置かれ
ワークショップが行なえるようになっているテーブルが4脚、そして日本では初めてとなる360度のジーニアスバーと呼ばれる長いテーブルが置かれている。
2フロアに並べられたMacやiPhone、iPadといった商品点数は230個にも及ぶ。これに加えて、地下階の両面には大きなたなが用意され、アッ
プル純正のアクセサリーや、他社製の周辺機器、バッグやケースといった商品が所狭しと並べられている。なお、顧客が利用するトイレも、この地下階のジーニ
アスバーの横のドアからアクセスする。
●360度のジーニアスバーとPro Labで購入後も通う
アップルストア表参道のスタッフは125名で、このうち3名は、アップルストア銀座オープン初期からいるスタッフだという。
さて、アップルストアと言えば、最大の特徴は修理や使い方の相談など、アップル製品に関するどんな相談事でも持ち込める「ジーニアスバー」というサービ
スだ。これまではBARという言葉のイメージ通り、机の片側にジーニアスと呼ばれる店員が立ち、その向かい側に顧客が座って向かい合うというスタイルだっ
た。
しかし、ここ数年は世界中のアップルストアで、店員と顧客が横並びで座って1台のMacや1台のiPad、1台のiPhoneを一緒にのぞき込んで指導
するスタイルが広がっており、1つの長いテーブルの4辺を店員と顧客で囲むようにして座る(このため360度のジーニアスバーと呼ばれている)。
アップルストア表参道は、国内の直営店としては初めてこの360度のジーニアスバーを採用している。また、ジーニアスバーのサービスに加えて、やはり、
こちらも日本では初の試みとなる、Pro Labsというサービスが提供される。Pro Labsでは、Apertureや、Final Cut
Proなど、それぞれ4つのセッションで構成されるプロ向けツールの講習を受けられる。
●アップルストア表参道の限定商品とW杯関連商品
アップルストア表参道では、目前に迫ったグランドオープンに向けて、同店でしか入手できない(数量も限られた)限定アクセサリーをいくつか用意している。
1つ目はパワーサポートが江戸切子調で作ったiPhoneケースの「Omotesando+kiriko エアージャケット for iPhone
5/5s」。これは同社が元々「AIR JACKET“kiriko” for iPhone
5s/5」として発売していた切子調のケースに表参道の地図をあしらったスペシャルバージョンだ。
一方、iPhone/iPad用の外部バッテリーブランドとして人気のmophieは「Omotesando」と書かれた「mophie juice pack powerstation mini Omotesando Tokyo Edition」を用意。
最近、アップルが買収したことでも大きな話題となったBeats Electronicsは、Bluetoothスピーカー「Beats by Dr.
Dre Pill 2.0 Speaker Omotesando」を提供。こちらは「Beats by Dr. Dre Pill 2.0
Speaker」をベースに、ラインカラーを変更し、背面に、表参道通りに立つ灯籠をあしらっている。
だが、今日しか手に入らない記念の品といえば、10時の開店から先着5000名に配布される予定のグランドオープン記念「Apple Store,
Omotesando」特製Tシャツだろう。開くと一面にケヤキの葉が広がる素敵な箱に、ケヤキの葉をあしらったTシャツが収まっている。
なお、アップルストア表参道では、ついに開幕したワールドカップ関連グッズも大々的に販売しており、その中にはサッカー日本代表チームのSAMURAI
BLUEにちなんだ青いヘッドフォン「Beats Studio
Blue-Red」も並んでいる。日本だけという超限定カラーモデルで、日曜日朝の日本代表の第1戦、対コートジボワール戦をヘッドフォンで静かに熱く観
戦しなければならない人にお勧めしたい商品だ。
ついに始まったFIFAワールドカップ2014ブラジル大会の初戦(ブラジル-クロアチア戦)にあわせて早起きをした人は、そのまま早起きついでに表参道を目指してみてはいかがだろうか。
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